ADVとは?ゲームジャンルの意味と開発現場での使われ方
ADVとは?
ADVとは「アドベンチャーゲーム(Adventure Game)」の略称で、プレイヤーが物語の主人公となり、選択肢を選びながらストーリーを進めていくゲームジャンルを指します。1970年代後半から存在する歴史あるジャンルであり、日本のゲーム業界では特に独自の進化を遂げてきました。
ADVの最大の特徴は、プレイヤーの選択や行動によって物語が分岐し、複数のエンディングが用意されている点です。アクション要素や戦闘システムよりも、テキストやビジュアル、音楽を通じて物語を体験することに重点が置かれています。
現代のゲーム市場では、恋愛シミュレーションやミステリー、ホラーなど、さまざまなテーマのADVが制作されており、スマートフォンゲームからコンシューマーゲームまで幅広いプラットフォームで展開されています。開発現場では単に「ADV」と呼ばれることが多く、企画書や仕様書でもこの略称が一般的に使用されています。
語源と定義
「アドベンチャー」という言葉は、英語の「adventure(冒険)」に由来します。ゲームジャンルとしてのアドベンチャーゲームは、1976年に登場した「Colossal Cave Adventure」が起源とされており、当時はテキストのみで構成されたゲームでした。プレイヤーはコマンドを入力して洞窟を探検し、謎を解いていくという形式でした。
日本では1980年代に入ると、堀井雄二氏が手がけた「ポートピア連続殺人事件」(1983年)などの作品が登場し、コマンド選択式のADVが主流となりました。この形式は「コマンド選択式ADV」と呼ばれ、プレイヤーが「調べる」「話す」「移動する」などのコマンドを選んで物語を進める方式です。
1990年代以降は、画面をクリックするだけで操作できる「ポイント&クリック式ADV」や、選択肢を選ぶだけでストーリーが進行する「ビジュアルノベル型ADV」など、より直感的な操作方法が普及しました。
現在の定義としては、ADVは「物語の読解と選択を中心としたゲーム体験を提供するジャンル」と捉えることができます。アクションやシミュレーション要素が含まれる場合でも、物語性と選択による分岐が核となっていればADVに分類されることが一般的です。
開発現場では、ADVの定義について以下のような要素が重視されます。
・物語性の高さ:シナリオがゲームの中心的要素である
・選択と分岐:プレイヤーの選択が結果に影響を与える
・探索要素:情報を集めたり、場所を移動したりする行為
・謎解き要素:パズルや推理などの思考的チャレンジ
これらの要素をどの程度含むかによって、ADVの中でもさらに細かいサブジャンルが生まれています。
他ジャンルとの違い
ADVは他のゲームジャンルと境界が曖昧な場合もありますが、主要な違いを理解しておくことで、開発現場でのコミュニケーションが円滑になります。ここでは、特に混同されやすいRPGとノベルゲームとの違いについて解説します。
RPG・ノベルとの比較
ADVとRPGの違い
RPG(ロールプレイングゲーム)もADVも「物語を体験する」という点では共通していますが、ゲームシステムの核心部分が大きく異なります。
RPGの主要な特徴は、キャラクターの成長システム(レベルアップ、ステータス強化など)と戦闘システムです。プレイヤーは敵と戦いながら経験値を獲得し、キャラクターを強化していきます。物語は重要ですが、ゲームプレイの中心はバトルや育成にあります。
一方、ADVではキャラクター成長や戦闘システムは基本的に存在しないか、あってもサブ要素に過ぎません。ゲームプレイの中心は「テキストを読むこと」「選択肢を選ぶこと」「謎を解くこと」にあります。プレイヤーのスキルは反射神経やキャラクター育成の戦略ではなく、物語の理解力や推理力が試されます。
ただし、近年は「428 〜封鎖された渋谷で〜」のように、ADV要素とRPG要素を融合させた作品も増えており、ジャンルの境界は流動的になっています。開発現場では、「RPG寄りのADV」「ADV要素を持つRPG」といった表現で区別することもあります。
ADVとノベルゲームの違い
ノベルゲーム(ビジュアルノベル)とADVの違いは、特に日本のゲーム業界では議論の的となることがあります。両者は非常に似ていますが、以下のような違いがあります。
ノベルゲームは、画面全体にテキストが表示され、主に「読む」ことに特化したゲーム形式です。選択肢は存在しますが、探索要素や謎解き要素はほとんどありません。「Fate/stay night」や「CLANNAD」などが代表的な作品です。画面構成も小説のような縦書きテキストや、背景画像の上にテキストウィンドウが表示される形式が一般的です。
従来のADVは、コマンド選択や探索、アイテムの使用、謎解きなどのゲーム要素が含まれます。「逆転裁判」シリーズのように、証拠品を集めて矛盾を指摘するなど、能動的なゲームプレイが求められます。テキストは画面下部のメッセージウィンドウに表示されることが多く、キャラクターの立ち絵やイベントCGが画面上部に配置される構成が一般的です。
開発現場では、以下のような使い分けがされることがあります。
・ADV:探索、謎解き、コマンド選択などのゲーム要素を含む
・ノベルゲーム/ビジュアルノベル:選択肢による分岐はあるが、主に読むことに特化
しかし実際には、両者の境界は曖昧で、「ノベルゲームはADVのサブジャンル」と捉える見方もあれば、「完全に別ジャンル」とする見方もあります。プロジェクトによってこの定義は異なるため、開発チーム内で認識を統一することが重要です。
また、海外では「Visual Novel」という用語が一般的で、日本の「ADV」と「ノベルゲーム」をまとめて指すことが多い点も覚えておくとよいでしょう。
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開発現場でのADV
ゲーム開発の現場において、ADVというジャンルは特有の制作フローと専門用語を持っています。ここでは、ADV開発における重要なポイントと、開発現場でどのようにADVという言葉が使われているかを解説します。
ADV開発では、プログラミングやグラフィック制作以上に、企画とシナリオの段階が重要視されます。なぜなら、ADVの品質は「どれだけ魅力的な物語を提供できるか」に大きく依存するためです。
開発現場では、以下のような専門用語が日常的に使われます。
・フラグ管理:プレイヤーの選択や行動を記録し、それに応じて物語を分岐させるシステム
・ルート:特定のキャラクターやエンディングに至る物語の道筋
・CG回収:イベントシーンなどで表示される一枚絵を見ること、またはその達成度
・選択肢分岐:プレイヤーの選択によって物語が変化するポイント
・スクリプト:ADVエンジンで動作するシナリオファイル
特にフラグ管理は、ADV開発において最も複雑な部分の一つです。「第2章で特定のキャラクターと会話していた場合、第5章で特別なイベントが発生する」といった条件分岐を、数百から数千のフラグで管理する必要があります。
また、ADV開発には専用のゲームエンジンやツールが使われてきた歴史があります。「吉里吉里」「NScripter」「ティラノスクリプト」「Ren'Py」などのADV専用エンジンは、2000年代から2010年代にかけて多くのADV作品を生み出し、現在でもインディーゲーム開発や個人制作の現場で活用されています。プログラミング知識がなくてもシナリオを実装できる点が、これらのエンジンの大きな魅力です。
一方、2026年現在の商業開発では、Unityを使用したADV制作がほぼ標準となっています。Unityであれば、ADV機能だけでなく3Dグラフィックス、Live2Dによるキャラクターアニメーション、ミニゲーム要素など、多様な表現を一つのプラットフォームで統合できるためです。また、マルチプラットフォーム展開(PC、スマートフォン、コンシューマー機)にも柔軟に対応できる点が、商業プロジェクトでは重視されています。
企画・演出の重要性
ADV開発において、企画と演出は他のジャンル以上に重要な役割を果たします。なぜなら、ADVはアクションの爽快感や戦略の深さではなく、「物語体験の質」で評価されるジャンルだからです。
企画段階での重要ポイント
企画段階では、以下の要素を明確に定義する必要があります。
・ターゲット層:恋愛系、ミステリー系、ホラー系など、どの層に訴求するか
・物語のテーマ:作品を通じて何を伝えたいか
・分岐構造:一本道なのか、マルチエンディングなのか、複雑に絡み合うルート構造なのか
・プレイ時間:1周のプレイ時間と、全ルート攻略に必要な時間
・差別化要素:他のADV作品と何が違うのか
特に分岐構造の設計は、ADV企画の核心部分です。「全てのルートで矛盾なく物語が完結するか」「プレイヤーが各ルートを攻略する順序によって、体験が損なわれないか」といった点を慎重に検討する必要があります。
開発現場では、「ルートチャート」や「フローチャート」を作成し、物語全体の構造を可視化することが一般的です。大規模なADVでは、このチャートが数十ページに及ぶこともあります。
演出面での重要ポイント
ADVの演出は、限られた表現手段の中で最大限の感情移入を生み出す技術です。以下のような要素が重要視されます。
・テキスト演出:文字の表示速度、フォント選択、改行のタイミング
・ビジュアル演出:キャラクターの立ち絵の表情差分、背景の切り替え、画面効果
・サウンド演出:BGMの選曲とタイミング、効果音、ボイス演技
・UI/UX設計:読みやすいテキストウィンドウ、直感的なメニュー操作
例えば、緊迫したシーンでは文字表示速度を速めて切迫感を演出したり、重要な台詞の前に「間」を作るために画面を一時停止させたりします。キャラクターの立ち絵も、通常の表情から驚いた表情に瞬時に切り替えることで、感情の変化を視覚的に表現します。
開発現場では、「演出スクリプト」という形で、これらの細かい演出指示をシナリオライターやディレクターが記述します。「ここで画面を暗転させる」「この台詞は赤文字で強調する」「BGMをフェードアウトさせてから次のシーンに移行する」といった指示が、テキストと一体となって記述されます。
また、近年のADVでは「ADVパート」と「3Dアドベンチャーパート」を組み合わせた作品も増えており、演出の幅はさらに広がっています。「逆転裁判」シリーズのように、キャラクターがアニメーションで動く演出や、「ダンガンロンパ」シリーズのようなスタイリッシュなUI演出など、従来のADVの枠を超えた表現も生まれています。
開発現場でのコミュニケーション
ADV開発では、シナリオライター、グラフィックデザイナー、サウンドクリエイター、プログラマーなど、多様な職種が協力して一つの作品を作り上げます。この際、ジャンル特有の用語を正確に理解しておくことが、スムーズなコミュニケーションにつながります。
例えば、「このシーンはビジュアルノベル形式で見せたい」と言われた場合、それが全画面テキスト表示を意味するのか、単に選択肢のないストーリー進行を意味するのか、チーム内で認識を統一しておく必要があります。
ADVにおいて、シナリオライターが描いた「感動のシーン」を、実際にゲーム画面上で「最高の演出」として形にするのはディレクターの腕の見せ所です。しかし、エンジニアに意図を正確に伝え、理想の演出を実装するためには、ディレクター自身にも一定の『技術的な理解』が欠かせません。
企画を単なるアイデアで終わらせず、確実に実装まで導くためのコミュニケーション術については、こちらの記事で詳しく解説しています。
あわせて読みたい:『企画』から『実装』まで伴走する:ゲームディレクターに必要な『技術的理解』とコミュニケーション術
ADV開発における企画と演出の質は、作品の成否を直接左右します。限られたリソースの中で最大限の物語体験を提供するために、開発現場では日々創意工夫が重ねられています。
まとめ
ADVとは「アドベンチャーゲーム」の略称で、物語を読み進め、選択肢を選びながらストーリーを体験するゲームジャンルです。1970年代に誕生し、日本では独自の進化を遂げてきた歴史あるジャンルであり、現在でも多くのファンに愛されています。
RPGとの違いは戦闘やキャラクター成長システムの有無にあり、ノベルゲームとの違いは探索や謎解きといったゲーム要素の多寡にあります。ただし、これらの境界は明確ではなく、作品やプロジェクトによって定義が異なる場合もあります。
開発現場では、ADVは企画と演出が特に重視されるジャンルです。フラグ管理や分岐構造の設計、テキスト・ビジュアル・サウンドの演出など、物語体験の質を高めるための様々な工夫が凝らされています。専用のゲームエンジンや開発ツールも多く存在し、小規模チームでも質の高いADV作品を制作することが可能です。
ゲーム開発を志す方や、業界で働き始めた方にとって、ADVというジャンルの特性と開発現場での使われ方を理解しておくことは、コミュニケーションを円滑にし、より良い作品作りに貢献できる基礎知識となるでしょう。
ADVは今後も技術の進化とともに新しい表現方法を取り入れながら、プレイヤーに忘れられない物語体験を提供し続けていくジャンルです。
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